「赤と黒」誤訳騒動 (2)
以前、地元の図書館で借りてきたスタンダール全集(第3巻「リュシュアン・ルーヴェン」、人文書院)にこんな訳文が載っていた。
当時、かなり無分別だがひじょうに勇気のある若干の青年が、
国王の廃位を要求しており、理工科学校(チェイルリー宮の
親玉から快からず思われている)は、校内に厳重に足留めを
くらっていた。
一読して意味が分からない。
それもそのはず、主語にあたる ” 理工科学校” と、その述語である "足留めをくらっていた" の組み合わせがおかしいからである。"学校" が "校内に足留めをくらう" 筈がない。
誤訳は、不可避の面もある。慣用からはずれた日本語の用法も、まったく理解できないわけではない。しかし、この訳文は文として意味をなさない、「日本語以前」 である。誤訳であることにも間違いないが、それ以前の問題である。
もちろん、人間だからミスはある。だが、冒頭(1ページ目)第2パラグラフ1行目にこんなものが目に入ると、読む気が失せる。先が思いやられるからだ。全集というのは、細心の注意を払って完成させるものではないのか。
上記の内容は「赤と黒」の誤訳問題とは直接関係ないのだが、杜撰な仕事ぶり、という点では共通している。そして、わたしがいちばん気になるのは、まさにこの点である。訳者(の名義人)であれ、編集者であれ、自分が世間に送り出すことばについて、もう少し注意深くなって然るべきであろう。
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